第18話 　

篠田初はその男性の格好いい背中を見つめ、疑問を浮かべた。

　この男がこんな場所に正確に現れるなんて、まさか密かに彼女を追跡していたのか？松山昌平の生まれつきの威圧感に震えた十数人の子分たちは、戦々恐々とした様子で威嚇した。「お前、誰だ？ 死にたくなければ余計なことに首を突っ込むな！」

　「俺が誰かは重要じゃない。重要なのは、お前たちが触れてはいけない人に手を出したら、その代償を払うべきだ」

　松山昌平の声は怒りを含まず威厳を放ち、非常に傲慢だった。

　「また死を恐れない奴がいたか！」

　金田広貴は地面から立ち上がり、ひどく打ち付けられた尻を揉みながら、歯を食いしばって言った。「この辺でこの俺様の、金田広貴の名を聞いたことねぇのか！どいつもこいつも、死にぞこない奴めか！」

　「お前たち、ぼーっとしてないで、やれ！」

　金田広貴の言葉が終わると、十数人の子分たちは鉄パイプを振り回し、松山昌平と篠田初に荒々しく襲いかかってきた。

　周りの食事をしていた人々は驚いて頭を抱え、四散していった。

　松山昌平は警戒しながら篠田初を守ろうとした。同時に、ネクタイを緩めてささやいた。

「怖がらないで、目を閉じて。すぐに終わらせるから」

　その言葉と共に、彼は一発の横蹴りで、奇襲を試みていた子分を遠くへ蹴飛ばした。

　おお、すごいよ！

　篠田初は無辜なウサギちゃんのような振る舞いで、男性の後ろに隠れていた。普段は冷たく見えるこの男が、こんなに優れた戦闘能力を持っているとは、想像できなかった！

　格闘界に置いても、彼はトップクラスの実力を持っているに違いなかった！

　でも、それもおかしくなかった。

　松山家は海都の八大名門の頂点に立つものだった。松山昌平はその一族の名高い若者として、馬術、囲碁、格闘術など、全面的に訓練を受けてきたに違いなかった。

　「うわ！命だけ！命だけを、助けてください！」

　短時間で、十数人の子分たちが打ち倒され、悲鳴が響き渡っていた。

　「今日のことを忘れるな。これからは彼女に近づくな！」

　松山昌平は高級スーツに付いた埃を軽く叩きながら、冷徹な顔で倒れている子分たちに警告した。

　篠田初は腕を組み、全編見物の姿勢で冷静に観察していた。

　もし以前なら、彼女は男のカッコいい姿に感動し、涙を流していたかもしれなかった。

　しかし今、彼女の心は波立たず、むしろ笑いたい気分だった。

　ふーん、四年間、彼は彼女に全く関心を示さなかった。

　今になって離婚を前にして、英雄のような演技を始めたのか？ 精神的に分裂してるのか？

　突然、金田広貴がビール瓶を掴み、目に血をにじませながら松山昌平の背後から急襲した。

　「くそっ、やってやる。ぶっ殺してやる！」

　「気をつけて！後ろに！」

　篠田初は緊張した声で警告したが、すでに遅かった。ビール瓶は松山昌平の頭に直接当たった。

　血が男の濃い黒髪に沿って流れ落ちていった。

　松山昌平は眉をひそめ、痛みで手で傷口を触れた。その手はすぐに血で濡れた。

　「くそ！」

　手のひらに血がついたのを見て、彼は非常に気分が悪く、大きな体が少しふらついた。

　篠田初は男の不調に気づき、一瞬の躊躇の後、彼を支えた。

　「松山昌平、大丈夫？」

　「ダメだ......」

　男の立体的で、神によって彫刻されたような完璧な顔立ちが、先ほどの意気軒昂の姿から一変し、痛みと弱さを露わにしていた。「もう君を守れない。早く逃げろ！」

　「まさか、これでダメになるの？」

　篠田初は少し混乱し、心の中でツッコミを入れた。たかがビール瓶で頭を打たれただけで、そんなに脆いのか？

　先ほど一対十で戦っていた時は、あんなに勇ましかったのに！

　「俺は血が苦手なんだ！」

　松山昌平はその言葉を最後に、篠田初の胸に倒れ込んだ。